居場所(駄文注意)
2009.07.21 |Category …語り・メモ
何か完成したので取りあえずこっちに載っけておく。
本当は落描き漫画にするつもりだった。
一部は本編のネタを引っ張ってきた。
暗くて重いと見せかけて最後でほのぼのと思ったら、その後で病んでいる。
次は作りかけの師弟物語を完成させれたらいいな。
この前のよりも微妙になった。
暇だから読んでやんぜって方はどうぞ。
本当は落描き漫画にするつもりだった。
一部は本編のネタを引っ張ってきた。
暗くて重いと見せかけて最後でほのぼのと思ったら、その後で病んでいる。
次は作りかけの師弟物語を完成させれたらいいな。
この前のよりも微妙になった。
暇だから読んでやんぜって方はどうぞ。
▽つづきはこちら
何も見えない、感覚さえもなくなりそうな暗闇の中に立っている。どこか遠くで激しく降る雨の音だけが微かに聞こえる。何だか嫌な感じが拭えず、得体の知れない不安に襲われる。
不意に、大きな物音と共に複数の荒々しい足音が響いた。ビクリと身体を震わせて、数歩前に歩む。
「…な、に…?」
呟いた筈の声がかすれて、耳に届く前に消えた。
―――そうだ、あたしはこれから何が起こるか知っている。とてもとても大好きな…世界で一番大切だった人が、苦しんでいる。
荒々しい物音と共に、聞き慣れた女性の悲鳴や呻き声が聞こえてくる。
「嫌だ…やめて。死んじゃう…死んじゃうよ!!」
堪らず走り出し、声にならない声で必至に叫ぶ。聞こえてくる物音や声に向かっているのかあるいは逃げているのか、訳が分からないままやみくもに走り続ける。
一瞬静かになった、と思ったその瞬間、女性の断末魔の悲鳴が闇に響き渡った。
絶望感に襲われて立ち止まった時、ふいにそれまでの深い闇が消える。
―――辺り一面、血の海だった。
ビクリと身体を大きく震わせて、ナスクは唐突に現実に引き戻された。
薄暗い部屋の中に、平和な静寂と雨の音だけが満ちている。時刻はAM4:30。隣のベッドに視線を向けると、マイアが微かな寝息を立てて眠っている。
ゆっくりと溜息をつくと、ナスクは強張った身体の力を抜いた。
「あれ、ナスクは?」
まだ半分寝ているスライルを半ば引っ張るようにして食堂に来たセイドが、普段は仲間の誰よりも早く起きてくる少女の姿が見えない事に気付いて尋ねた。マイアが不安そうに答える。
「…何か、元気がなくて。朝ご飯も要らないって言うし…」
「えぇ、ナスク姉ちゃん病気?」
マイアの言葉にトパーズも心配そうな顔になる。
「…あいつは、雨が酷い時はいつも元気ない」
ボソリと呟いたロディフルの言葉に一行は顔を見合わせた。
「…そうだっけ?」
「さあ…雨、嫌いなのかしら?」
二人の言葉に、分かるかどうかというくらい微かに頷く。ナスクは、大抵の場合雨の朝はテンションが高い。だが、ふとした時の表情には陰りがあった。そして時々、一気に元気がなくなる時がある。そう、ちょうど今日の彼女のように。
「…まあ、この雨だしなあ。止むまでは出発を見合わせるか」
セイドの言葉に、ロディフルは窓の外の重苦しい雨空を見上げた。
窓に叩き付ける雨を見上げて、ナスクはベッドに仰向けになったまま顔を腕で覆った。
以前に比べると最近は悪夢を見る事が減った。それでも、今日のような雨の日は決まって悪夢を見る。あの日と同じ雨の音が、ナスクの記憶を呼び起こすのだろうか。
最愛の人を失い、村の住民を犠牲にし、ナスクの人生そのものを変えた事件。育ての親を目の前で殺された、その時の光景を一時だって忘れた事はない。未だ鮮明に脳裏に焼き付いて、それを思い起こすと頭痛と吐き気に襲われる。
…気持ち、悪い。
ゴロリと寝返りを打ってシーツに顔を押し付ける。
殺される瞬間のミズミの苦しみ、父親を殺された幼馴染みから投げつけられた一言、そして死んでしまったもう一人の幼馴染み。彼らの事を想う度に思考は取り留めもなく広がり、やがて決まって一つの自問に辿り着くのだ。
―――あたしは、ここにいていいの?
この旅には、最初から好意的に受け入れられていた訳ではない。行方不明になっているベルンバルドの事が心配で、自分も何かしたくて、ベルンバルドを探して旅をしている彼らに半ば押しかけのような形で着いて来ただけだ。
スライルとセイドとロディフルは自分とは違って強い。マイアもその彼らに守られている。どんな事があっても、そう簡単には死にはしないだろう。こんな事を考えるのは傲慢でさえあるかもしれない。それでも…思わずにはいられないのだ。
自分のせいで仲間が傷ついたり命を落としたりしないだろうか?自分が関わる事で、取り返しがつかない程に仲間の人生を狂わせてはいないだろうか?
もしかしたら自分は仲間達と共に来るべきではなかったのかもしれない。それ以前に、故郷が襲われた時に真っ先に殺されていれば良かったのだ。そうすれば、こんなに犠牲者を出す事もなかっただろう。ベルンバルドが行方不明になる事もなかった筈だ。…いや、そもそも、名も知らない親から捨てられた時にさっさと死んでいれば良かったのだ。
再び、育ての親の事を想う。赤ん坊だった自分を拾って、女手一つで育ててくれた優しい女性。自分がいる事で辛い事もしんどい事もあっただろうに、いつだって笑顔で抱きしめて愛情を注いでくれた。
―――ミズミさんは…幸せ、だった?まだ若かったのにあたしを育てて、あたしのせいで殺されて。ねえ、ミズミさん。幸せ、だった…?
既にこの世にはいない相手に向かって、心の中で問いかける。
しばらくそうしていた後、唐突に扉が勢い良く開いてマイアが顔を覗かせた。驚いて起き上がり、戸惑うような顔をしているナスクを興奮したように呼ぶ。
「ナスク!ちょっと、ちょっと来て!」
困惑したままのナスクを引っ張って、廊下を挟んだ向かい側の男部屋に引っ張り込む。一同が、全開にした窓から外を見ていた。いつの間に雨が上がったのか、光が差し込んでいる。
「ほら、虹!綺麗でしょう…!?」
見上げる空に、大きな虹がかかっていた。それは街全体を覆うように、鮮やかな色で構えている。
その光景に呼び覚まされるかのように、不意に過去の記憶が色鮮やかに蘇ってきた。
雨上がりの澄んだ空気。雲が光り、空には虹がかかっている。ミズミが、虹を指さして笑っている。その先を見てナスクも笑っている。
燃えるような夕焼け。ベルンバルドがナスクを抱き上げている。その時、ナスクは悲しいと感じた。ミズミを失って始めて、声を上げて泣いた。
そうだ。ミズミもベルンバルドも、笑っていた。その笑顔は、いつだって幸せそうで。
ポロリ、とナスクの目から涙がこぼれ落ちた。
「…あ、あれ!?」
慌てて目をこするが、後から後から涙が溢れてくる。セイドとマイアとトパーズがギョッとしたようにナスクを見る。
「ナスク、どうした!?」
「どこか痛みでもするの?」
フルフル、と慌てて首を振って笑おうとする。だが、涙は止まらない。
「違、何でもな…あれ、おかしいな」
ベルンバルドに心を開くようになった頃、よくこういう事があった。だがこんな事はここ何年かはなかった事で、ナスクも戸惑う。何が悲しいのかも分からないのに、こんな風にいきなり涙が出てくるなんて。
ポロポロと泣くナスクに、セイドとマイアが顔を見合わせた。そして、セイドがガシッとナスクの肩に腕を回し、マイアがナスクの腕に抱き着いた。
「ほら、どうしたどうした!随分元気のない顔してんな?」
虚を突かれたような顔をしているナスクの側に来て、ロディフルも呟く。
「無理するな。お前がそう言った」
その言葉に、コクコク、と心配そうにトパーズが頷いた。仲間の顔を代わる代わるに見るナスクの上に、スライルが大真面目な顔でそっと手をかざす。
「俺様の力を分け与えてやろう」
きょとんとした後、ナスクの中に温かい感情が染み渡る。見せかけでも空元気でもなく、今度こそナスクは本当に笑顔になった。その泣き笑いを見て仲間も笑顔になる。
失った時間が戻る事はない。それでもこうして笑う事が出来る。今は、ここが自分の居場所なのだ。
「何でもないー」
ナスクの声に明るさが戻った。
―――もしも神というものがいるのなら。どうか、神様。次に命を奪うなら、彼らではなくあたしを。あたしはどうなってもいいから、優しい彼らの命は奪わないでください。
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