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風の吹きだまり

ここは別館ブログとなります。 某同盟でのチャット感想、回してくださったバトン回答など、オリキャラ交流関係の想いを綴る場所です。

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師弟物語

前のよりちょっと長いです。
2倍くらい?
これは本当に、こういう感じの話書きたいっていうのしかなくて、殆どを2日で書いたからちょっと大変だったけど。
完成出来たので妙な満足感。

暇だし仕方ないから読んでやんぜって方は追記からどうぞ。

▽つづきはこちら

一年前から家族が増えた。
小さくて華奢で、昔他界した愛娘によく似た可愛らしい少女だ。ただ、娘は私と同じ茶髪だったが彼女は淡い金髪、その瞳は鮮やかな翠緑の色を持っている。
初めて出会った時、彼女は深い傷を負って瀕死の状態で気を失っていた。細かい経緯は省くが、私は彼女を娘として迎え入れる事にした。
それまで在籍していた軍から身を引き、旧友を頼って小さな島に移り住んだ。半年もすると少女の身体の怪我はほぼ回復したものの、心の傷は癒えないようだった。そう、その小さな背中に痛々しく残った、大きな傷跡のように。
その事に関しては口を閉ざすから、彼女に何があったかは知らない。察するところ、その幼気な少女の存在が家族や友人などの命を奪う事となったようだ。―――その推察があながち間違いではないと確信するだけの事が、彼女と出会ってから私の身にもあった訳だが。
 
 一年経った最近、ようやく少女は子どもらしい笑顔を見せるようになった。
家の外へも臆する事なく出るようになり、人通りのある港にも足を伸ばすようになった。
なったのだ、が。
 
「ベルンバルドさあぁん!」
血相を変えて、少年が駆け込んでくる。おや、彼は卸市場の所のアルジャーノンの息子だな、などと暢気に考えているベルンバルドの前で立ち止まると、少年は荒い息遣いで言う。
「―――ナ、ナスク、が…」
その瞬間、嫌な予感が脳を過ぎる。
「どこだい?行ってこよう」
「大通りの、ドイッチャーさんの店の辺り!」
少年の言葉に頷くと、ベルンバルドは大通りに向かって駆けだした。
 
案の定、人通りのない路地裏を探すとそこにはボロボロになったナスクがいた。いつもの事だ。取っ組み合いをしている男もいる、それもいつもの事だ。
違う事と言えば、ナスクが倒れている男の上に馬乗りになって男の腕をねじり上げている事だ。おや、とベルンバルドは眉を上げた。
このオーリアン島は辺境にあり、島自体が小さいという事もあって大陸に本部がある軍の監視が行き届いていない。海を舞台に暴れ回る海賊にとっては絶好の資源入手場所という訳だ。そういった輩は概して柄が悪いものであり、ベルンバルドがこの島に来て自衛団を組むまで治安は荒れていた。
近頃は海賊が現れる事も減ってきているのだが、それでもまだ、時折この島にやってくる事がある。そして何故か、その度にナスクとの乱闘事件が起こるのだ。
最初はいつでも、ナスクは殴り蹴られてボロボロにやられていた。側にいた男や誰かから聞いたベルンバルドが駆けつけて止める事で、擦り傷や打撲で済んでいるという状態だった。だが、そのうちにナスクが反撃出来るようになってきたのか、相手との優劣が変わってきた。そして今日のこの状況だ。
元よりすばしっこく喧嘩慣れしているようではあったが、大の大人、それも海賊をやり込めるようになるとは。ふむ、と普段のナスクの様子を思い出す。
ベルンバルドは島で神父として協会を管理する傍ら、島の男や若者に武術を教えてもいた。付け焼き刃ではあるが、いざという時には結構役に立つものだ。ベルンバルド自身も旧友であるエルシオと組み手を交わしたり道具を使っての訓練をしたりして、自己向上の為の努力は怠らない。その様子を、ナスクはいつも熱心に眺めていた。男の上に乗ってナスクが取っていた形、あれはベルンバルドが教えている中にある関節技だ。見事に決まっていた。やはり一度話し合わないといけないな、とベルンバルドは溜息をついた。
 
ナスクがそっぽを向く。薬箱の蓋を閉じてベルンバルドが息を吐いた。
「ナ…」
「やめないもん」
ベルンバルドが口を開くと同時にナスクが言い切る。
「やめないもん。あたし悪くない。あいつ、チャルおばさんを突き飛ばしても謝りもしなかった!」
まだ怒りが収まり切らぬかのように、憤慨した様子で続ける。
「…うん、そうだね。確かに向こうが悪いのかもしれない。けれどね、お前の行動が正しいとは思わないな」
穏やかに話すベルンバルドの言葉に、ナスクが反抗するようにバッとこちらを向く。
「だってっ…!」
「だって、じゃない。やっつければ何でも解決すると思ってはいけないよ。いくら横柄な態度を取っていても、相手が故意的に暴れたり誰かを傷付けたりしている訳でもないのにわざわざ喧嘩を売るなら、それはお前も悪い。見て覚えた技を試すというのは論外だよ」
ギクリ、とナスクが身を強張らせた。その肩にポン、と手を置いて、少しだけ語気を強めて言う。
「私が皆に教えているのは、万が一海賊に襲われた時に自分の身を守れるようにする為だからね。喧嘩の為ではない。特に関節技は、正しい知識もなく簡単に使うのは危険だ。君がやっているのはただの暴力だよ」
「違うもん!」
ガタンと音を立てて、ナスクが勢い良く立ち上がった。怒りとも悔しさとも違う、何とも言えない苦し気な表情でベルンバルドを睨み付ける。見つめ返すベルンバルドに、消え入りそうな声で再び呟く。
「…違う、もん」
俯くと、勢いよく部屋から飛び出して駆けて行った。バタン、と玄関の扉が閉じる音を聞いて、ベルンバルドはやれやれと頭をかいた。
こんなに気の強い女の子だとは思わなかった。いい歳をした自分が、たった一人の少女に振り回されて悪戦苦闘している。あの子は頭が良いから大抵の事はよく理解し、だからつい大人と同じような感覚で話してしまうが、ただの暴力というのは言葉が悪かったかもしれない。自分としてはナスクの為を思って言ったのだが…。
こうヘソを曲げてしまった時はどこへ行くのやら、日が暮れるまで帰ってこない。帰ってきたらお帰りと言って、さっきは言い過ぎたと謝って抱きしめてあげよう。温かい食事を食べて、それからもっと優しく、分かりやすく話せばいいのだ。
ナスクが好きなシチューを作ろうと、ベルンバルドは立ち上がると台所へと向かった。
 
だが、夜になってもナスクは戻ってこなかった。
 
流石に「そのうち帰ってくるだろう」とも言っていられない時刻になり、ベルンバルドはカンテラを手に、親しい者数人の協力を得て港や市場を探して回った。小さい島だから数人で回ればさほど時間はかからなかったが、ナスクの姿はどこにもない。海へ落ちた可能性も考えて小船で海面を照らして回ったが、全て徒労に終わった。
もしかしたらすれ違いで家に帰っているかもしれないという事で一度解散して家に戻ったものの、ナスクが帰った様子はなかった。探している間に帰った時の為に残しておいたナスクへの書き置きもそのままだ。
ふと、ベルンバルドは港を見下ろした。オーリアン島はそれ自体が小高い山のようになっており、ベルンバルドの家はその中腹程度、高台の上にあった。港や市場ばかりに目を向けていて気付かなかったが、もしかして山の方に行ったという事はあるだろうか?振り返って、黒々とした木々の間に目を向ける。人の手が入っていない山に一人で入るなど考えられないが、そうならば午後からナスクの姿さえ見た者がいない事も納得がいく。
高度がある訳でもないので、三十分も歩くとすぐに山頂の開けた場所に辿り着く。その辺りは草の合間に大きい岩が剥き出しになっており、湧き水が小さな流れを作っている。暗いので見落としたかどうかは分からないが、少なくともベルンバルドの呼びかけに対する返答はなかった。ふむ、と考えるようにして、ベルンバルドは山の反対側へ降りて行った。
ガサガサと茂みをかき分けて進むと、不意に木々が疎らになった場所に出る。木の幹と幹を横切るように斜めに紐が伸びている事に気付き、首を傾げてその紐をグイグイと引いてみる。頭上でザザッという音がしたかと思うといくつもの小枝が落ちてきて、ベルンバルドは素早く飛び退いた。呆気に取られて落ちてきた上を見上げる。
何となく、ベルンバルドはこれを作ったのはナスクだと確信していた。よく見るとその辺り一帯に罠とも言えないような仕掛けがあるが、そのどれもがベルンバルドの訓練を真似たようなものばかりだからだ。
名前を呼びながらそこを通り過ぎてしばらくすると、切り立った崖に出る。遙か下からは打ち寄せる波の音が聞こえるばかりで、カンテラの光も届きはしない。引き返して進みかけた時、不意に微かな声がベルンバルドの呼びかけに応えた。
「ベルさぁん…」
「ナスク!」
叫んで、声のした方へ駆け出す。
「どこにいる!?」
「川の方、落ちたぁ…!」
その声の通りに川のある方へ進む。少し谷のようになっている坂を落ちるようにして河原に降り立つと、ザッと見て回る。自分より下流の方の暗がりの中で、淡い金髪の頭が動いてナスクがこちらを見上げた。一飛びでそちらへ移動し、ベルンバルドは座り込んでいるナスクを抱きしめた。
 
「…自分のした事、分かっているね?」
「…ごめんなさい…」
流石に怒りのオーラをまとっているベルンバルドの前で、ナスクは既に涙目で小さくなっている。
「すごく、すごーく心配したんだよ。エルシオさんや、レッツァさんや、ロナルドさんや、その他の港の人も心配して探してくれたんだよ。私が見つけなかったら一体どうするつもりだったんだ?」
「…明るくなったら…見えるようになるし、痛みもマシになると思って。そしたら戻るつもりだった…」
あの暗がりの中を一人で一晩過ごすつもりだったって?あの場所から自分で戻るつもりだったって?足を捻っているのに?普通なら半狂乱になるような状況なのに、その子供らしかぬ妙な冷静さにベルンバルドは怒るよりも呆れてしまった。
やはり自分に怒る役は向いてないなと溜め息をつくと、ふっと笑う。
「もういいよ。お前が…まあ無事にとは言えないが、大した怪我もなく帰ってきて良かった。もうこんな事のないようにしてね。危険な場所とそうじゃない場所の判断くらい出来るだろう?」
穏やかなベルンバルドの声に、コクリと無言で頷く。
「あぁ、そうだ。あの辺りにいっぱいあった仕掛けの事だけど…」
さり気なく言ったつもりだが、ナスクは途端に身を固くして俯いた。
「…ナスクが作ったのかな?」
聞くまでもないナスクの反応に苦笑しながら続ける。無言でいるというのが何よりの肯定だった。
「危ないんじゃないかな。私がいつもやってる事を真似したのかい?」
ん?と返事を促すが、頑なに沈黙を守ってベルンバルドと視線を合わそうとしない。
「…怒っているんじゃないよ。ただ、私がやっているのはとても危険な事なんだ。遊び半分に真似をしてはいけないよ」
「遊び半分なんかじゃない!」
唐突にナスクが叫んだ。その剣幕に呆気に取られているベルンバルドを真っ直ぐ睨むナスクの表情が、みるみるうちに泣き顔に変わる。
「あっ、遊び半分じゃ、なっい。ベルさん、武術、おせーてくれないからっ」
それ以上は声にならなかったようで、ひっひっと泣くのを必至に堪えようとしている。
自分にも武術を教えてくれというのは、前から言われている事だった。大怪我をしていたナスクが自由に動けるようになり、少しずつ外を恐れなくなり、ベルンバルドが武術を教えていると知った頃からだ。だが、ベルンバルドはそんな小さな少女に戦いなど教えたくなかったし、自分が側にいるのだから危険はないと考えて教えるつもりはなかった。
「…強くなりたいのかい?」
ベルンバルドの言葉にナスクが激しく頷く。乱闘騒ぎや山の中の仕掛けも、そういう気持ちの表れなのだろう。
「どうして?ここは安全だし、何かあった時は私がいるからもう怖がる事はないんだよ」
そう言うと、違うというように見上げながら嗚咽の合間に必至に言葉を紡ぎ出す。
「ベルさん、殺されたら、やだった」
その言葉にベルンバルドはきょとんとした顔をした。
「私?どうして私が殺されるなんて思ったんだい?」
ブンブンと首を横に振る。
「…私は簡単には殺されないよ。きっと、君が思うよりもずっと強いんだから」
宥めるように言うが、ナスクは再び激しく首を振る。
「やだ、やだっ。ベルさん、いなくなっちゃやだっ」
それは、親を求めて泣く赤ん坊のようで。強気で、強情で、甘えてはくるものの自分に心を開いているのかどうか分からないところのある子供ではあったが、自分は確かに求められていたのだ。
―――この子は、不安だったのだろう。
親か兄弟か友人か、いずれにしても大切な人が殺されるのを体験しているのだ。他人に心を開き始めた今、そのベルンバルドもまた同じように殺される事を恐れたのだろう。だから自分が強くなるという安直な結論にまだ子供なのだという微笑ましさを感じ、大切に想われているという喜びを感じ、また痛々しくもあった。
この子は私が守ろう。二度と、その心に傷がつく事のないように。また、武術も教えてあげよう。それが彼女の不安を取り除く事に繋がるのなら。しゃくり上げるナスクを、ベルンバルドは静かに抱きしめた。
 
―――あの雨上がりの午後、私は一人の少女と出会った。
彼女は小さな身体に無数の傷を負い、背中から溢れる血は止まる事なく、息も絶え絶えに倒れていた。数週間生死をさ迷って目を覚ました時、初めて彼女は私と対面した。怪我の痛みと体力の衰えで起き上がる事も出来ずに、僅かに顔を動かせるのみだった。しかしその鮮やかな…早春の若葉のような翠緑の瞳は、怯えつつも真っ直ぐに私の目を射抜いていた。
「―――私は君に危害を加えたりはしないよ」
 私は笑って彼女に手を差し出した。
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